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交渉力とは何か(5)~NOがよりよいYESを作る
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2012年11月 6日 07:00

<クリエイティブオプション>
tamura_kyozyu.jpg 交渉上手は、聞き上手でもある。相手から、情報を聞き出し、聞き出した情報から相手のニーズ、本質を見抜き、自分たちとの「共通項」を探していく。付加価値、共通利益を、相手と一緒になって作ることができる人が、よき交渉者と言えるだろう。
 しかし、無論、どの交渉もスムーズにいくほど甘くはない。交渉が行き詰まった時には、それを打開するクリエイティブオプション(創造的選択肢)の提示が必要となってくる。
 「創造的な選択肢を見つけるには、答えを用意しなくてもいいということ。創造的な選択肢を生み出すための、"きっかけ"を用意するだけでいい」と、田村教授は言う。

 仮に、頭に浮かんだアイディアが、突拍子もないアイディアであっても、「こんなことを考えているんですけど、ありえないですかね?」などと、ネタとして話してみるのも、きっかけづくりの1つとなる。そういうきっかけづくりが、建設的な選択肢を生み出すことにつながる。「そのアイディアのなかの、3分の1も当たらなくていいと思う。きっかけさえ作ればそれでいい。日本人は怖がり。『くだらないアイディアですけど...』などと、前置きでハードルを下げるのも1つの手段です」と語る。実際、くだらないアイディア(というと失礼だが...)から、ヒット商品が生まれた例は少なくない。

<交渉に欠かせない「BATNA」>
 交渉が不調に陥りそうな時、不調時の代替案、最後通告とも言うべき「BATNA」が、武器となる。交渉が決裂した場合の最低のラインを事前に準備しておくことで、交渉時の心理的な余裕を確保する。
 「和平交渉をしようとしている国は、軍事行動も辞さないという態度を示すことが必要。強いメッセージを発信できるものでなければならない」。

 本音では和平を成立させたいが、決裂しそうになった時、「軍事行動もやむなし」というBATNA(決裂した場合の代替案)を懐に持っていることで、本音の「和平」に向けて交渉を進めやすくなる。
シビアな交渉の現場では、ギリギリの選択を迫られることもある。その場合に、仮に決裂しそうな場合にも「BATNA」があることで、妥協せずに「NO」を言うことが可能となる。

 田村教授は「交渉事の最後には、NOを言える権利を双方が持っている。おそれずにNOを言うことが大切。NOを言うことが、よりよいYESを作ることができるということを知っておくべき」と語った。

(つづく)
【岩下 昌弘】

≪ (4) | (6・終) ≫

<プロフィール>
tamura_kyozyu_pr.jpg田村 次朗(たむら じろう)
慶応義塾大学法学部教授。専攻は、経済法、国際経済法と交渉学。ハーバード・ロー・スクール修士課程在籍時に、交渉学を学ぶ。ジョージタウン大学客員教授などを経て、97年より、現職。ハーバード大学交渉学研究所では、インターナショナル・アカデミック・アドバイザー、ダボス会議(世界経済フォーラム)では「交渉と紛争解決」委員会の委員を務める。交渉学に関する著書に「交渉の戦略」(04年、ダイヤモンド社)など。


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